新型コロナウィルス(以下「コロナ」と記す)の世界的な拡大は、経済活動の停滞や既存の生活様式の変更をもたらしている。特に商業の分野では販売手法の王道である対面販売は感染予防の中で大きな変革を余儀なくされ、新たな販売方法の創出が求められている。
オリーブの樹はその前身の小規模作業所オリーブハウス時代より、自主製造・自主販売を障害者の就労事業の根幹と位置付け、事業の発展を図って来た。「声をかけられればいつでも、どこでも出店する」をモットーに休日、早朝、夜間あるいは県外、遠距離に関わらず出店に努めた。その結果としてイベント(バザー販売等を含む)や会社(区役所等を含む)への出張販売等での施設外販売箇所は年間500か所以上となっている。特に秋の販売活動は10、11月で約200か所の出店場所が入り、施設外販売の要となり法人、施設の持てる力を発揮し、販売活動を展開することにより1000万~1200万円の売り上げを築いてきた。この施設外販売の実績は、全国でも稀有なものであり、その実績が多くの市民や行政にも評価される中で施設整備の拡大が成し遂げられてきた。オリーブの樹販売事業は、36年の障害者の働く場作りの成果を象徴するものであり、我々の誇りありアイデンティティーと言っても過言ではない。
36年間の施設外販売活動では、昭和天皇の崩御によるイベント自粛、バブル崩壊による景気の低迷、O-157等の感染症の発生、悪天候の連続等の外的要因によって幾度となく販売箇所の減少という障壁に遭遇してきた。しかし減少した箇所を新たな販売場所を開拓したり、一か所当たり売り上げの向上を図ることによりその減少を補ってきた。年により施設外販売は好不調はあったものの大きく落ち込むことは無く、安心感を職員や利用者に与えて来た。
今コロナにより全ての施設外販売が無くなる中、あるいは無くなることが予想される中で、私たちは36年間にわたり築いてきた販売活動は僅か数か月で崩壊するという今まで決して想定することのできない危機的状況を迎えることとなった。しかしそれはオリーブの樹だけでは無く商業活動を行っているあらゆる会社、個人に言えることあり、災害等により個別的に発生した危機的状況ではないのであるから、オリーブの樹だけが助けを求めても賛同を得られるものではない。
社会全体、国家全体が危機に陥る中で特にその被害が一番多きい小売業や飲食業は自らの業態の変化を否が応にも迫れられている。コロナの被害者意識で現状を嘆いていても、政府や地方自治体を当てにしても今のコロナ禍から脱出できないことを悟り新たな販売手法を求め歩みだしているのである。オリーブの樹もここで新たな販路の開拓に向けて一歩を踏み出す必要がある。
「今こそ大きく脱皮をしなくてはならないのですが、それはどれだけ今までのオリーブハウスの枠を超えた発想で、新たな事業を創出できるかということになります。障害者施設でありながらそれを飛び越えた事業を展開しなくてはなりません。私はそのキーワードは『生きづらさ』だと思っています。地域の中のあらゆる『生きづらさ』を持っている人たちに支援を送ることが、障害者の就労事業という今までの限られた領域から脱することになると考えます。このための事業の内容、施設作り、新たな手法の開発に早急に取り組まなくてはなりません。
30年間楽しませていただいた償いとして、新生オリーブハウスを創り上げるため『産みの苦しみ』を覚悟の上、先駆的な事業の創出をおこなっていきます。」
これはオリーブハウス設立30周年記念に発行した機関誌内の私の拙文の一部である。障害者を始めとする社会での「生きづらさ」を抱える人たちのためにというのがオリーブハウスの出発点であり、自主製品・自主販売に拘り販売事業を展開してきたのも、障害者の生の姿を多くの人に知ってもらいたい、販売活動を通じて障害者が前面に出られる場を作っていきたいと望んだからである。しかしその一方で施設外販売が強固になる中でその思いは薄れ、「秋の販売があるから」ということに甘んじ、秋の販売が不振だった年であっても内心は不安を感じつつも実際的には何も行わず現状を踏襲するのみだった。この文中にある「生きづらさ」を抱える多くの人々のための新たな事業は販売事業に関して言えば何も行われず、その結果6年経った今も30年時の決意は実行できずにいる。
コロナが外圧となって今販売活動に「革命」とも言える改革の波が押し寄せている。日本は「黒船」や「敗戦」により社会構造が変わり一からの出直しを行ってきた。それと同様にオリーブの樹の販売事業も36年目にして一からやり直さなくてはならない。イベント販売中心の販売体制から脱皮するための「産みの苦しみ」を覚悟の上での歩みを始めなくてはならない。ネットや注文販売という新たな分野に勇気をもって挑戦する所存である。
そこで、ここに「脱イベント販売宣言」をし、私を先頭に職員一同が新たな販売事業の創出に持てる力・英知を結集し、一丸となって取り組む決意を表するものである。
令和2年6月26日
社会福祉法人オリーブの樹
理事長 加藤 裕二
平成31(2019)年3月 就労継続支援A型 開所
平成31(2019)年4月 就労継続支援B型 生活介護 開所