小倉昌男氏を思う

社会福祉法人オリーブの樹 理事長

加藤 裕二(かとう ゆうじ)

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小倉昌男氏を思う

社会福祉法人オリーブの樹

理事長 加藤 裕二

  小倉昌男氏を思う

                   
社会福祉法人オリーブの樹 理事長 加藤 裕二

 

いきなり唐突ではございますが「小倉昌男」という名を知っていますか? こう尋ねたら多くの方々は首を傾げることでしょう。中には親しい人にこの名の方がいればその人を思い浮かべる人もいるかもしれません。では「クロネコヤマトの宅急便は知っていますか?」と尋ねたらどうでしょう。老若男女ほとんど100%の方が知っていると答えるでしょう。

 

 実は小倉昌男氏は「クロネコヤマト宅急便」の生みの親です。1974年に父親が創業した大和運輸(現ヤマト運輸)を引き継ぎ、低迷していた会社の業績を回復し、中企業の会社を売上高1兆円の大企業に伸し上げた人物です。その原動力となったのが「宅急便」です。宅急便は日本初の小口貨物配送サービスでした。このサービスにより私たちは家庭の小荷物を気軽日本全国に送ることができるようになりました。今ネットで購入した商品がすぐ手元に配達されるのもこのサービスのおかげです。小倉氏はまさに日本に物流革命を起こした経営者でした。その手腕から日本屈指の名経営者と言われておりますが、我々にとっては天皇陛下と同じような全く直にお会いすることができない「天上人」と言ってもよい方で、小倉氏を身近に感じることは全くなかったのです。だから名前を知らないのも無理のないことです。

 

私は幸運なことにその小倉氏とはヤマト財団が1996年の小規模福祉作業を支援するパワーアップセミナーでお会いし、その後数回お目に掛る機会を得ました。このことはオリーブハウスをやっていなければ起きえなかったまさに奇跡ともいえることでしょう。

 

小倉氏は2001年には開所したばかりのオリーブハウスにもわざわざ足を運んで下さいました。理不尽なことを許さず許認可権を持つ運輸省(現国交省)だろうが大手デパート三越だろうが徹底的に闘った方です。このため「闘う経営者」と評されていましたが、お会いした時は硬派のイメージとはとは似つかわない親しみのある方でした。偉ぶることなくオリーブハウスの活動について気さくに訊ねて来る姿からは、本当の大物というものはやはり人の深さが違うなとの印象を受けました。そして小倉氏は私にとっては大橋先生(元日本社会事業大学学長)とともに「師」として仰ぐ存在となりました。

 

 小倉氏は2005年に他界しましたが、就労継続支援事業A型連絡協議会(全Aネット)との関係でヤマト財団との縁は切れずおり、5月には財団の広報誌「NEWS№70」の巻頭コラムを依頼され執筆することになり、また6月にはNHKが小倉氏の番組を作るということで取材を受けることになりました。そんなことから改めて小倉氏を懐かしく思い、また同時に氏からの学びを思い起こそうとかつて読んだ本を読み返したり、新たに購入し読み始めたりしました。(下記参照)氏の経営者の立場から福祉を見る厳しい目、そして批判するばかりだけではない改革に向けての提言は、20年以上を経た今も私の心を動かすものであり初心への回帰に導くものでありました。障害者就労に携わる者は是非とも小倉氏に係る著作を読んでほしいと思います。特に「福祉を変える経営 障害者の月給1万円からの脱出」は私にとっては就労支援事業のバイブルと言っても良いほどの位置づけです。「福祉的経済は存在しない」、「良いサービスを提供すれば利益は後から着いてくる」、「工賃アップは簡単。払いたいと思う給与を払ってしまうこと」等々小倉氏の普遍の教えが書かれています。就労継続支援事業A型、B型を行う方々はぜひ一読してくれることを願っています。

 

 さて、いくつかの本を読む中で、「小倉昌男祈りと経営 ヤマト『宅急便の父』が闘っていたもの」は他の本のように小倉氏の業績や経営論、障害者福祉への取り組みを紹介するものとは異なった視点で書かれており興味深かったです。なぜなら本書は今まで小倉氏自身がその本音を語ることなく、また氏と関わる多くの人々には謎としてとらえられていたヤマト福祉財団設立の動機、つまりヤマト運輸の社長、会長時代には障害者福祉には何の関心を示していなかった小倉氏が、1993年に突如22億円というとてつもない私財を注ぎこみ、なぜ障害者のためにと「ヤマト福祉財団」を設立したかという謎の解明に迫っているからです。

 

 その答えをこの本では小倉氏の家庭内での娘と母親の激しい不和(バトル)、その間に立っての父親としての不甲斐なさへの自責、娘と妻を精神病に追いやった(特に妻は様々な苦悩の中で酒におぼれ早死にしてしまう)ことへの贖罪に見出していました。更に娘が精神障害を持っていた(これは大人になって分かったことですが)ことから精神障害に寄与したかったからではないかとの推測をしています。

 

 一方家族が皆去り大邸宅での孤独な晩年を送っていた小倉氏に寄り添い身の回りのお世話をしいた女性におりましたが、氏がこの女性に恋人のような思いを寄せていたことも綴られており、小倉氏の私生活をかなり赤裸に記しております。その内容は小倉氏に対する畏敬の念を持っていた私にとってはショックなことではありましたが、どんなに功をなし比類の業績を挙げた人物でもその裏には弱さを抱えおり、自分を支えてくれる女性を求めているのだということを認識させてくれました。小倉氏も「神様」ではなかったのです。本書をとおして人間としての小倉昌男に接したようで、幾分か氏との距離が縮まった思いがしました。

 

 さて、小倉氏の業績がNHKEテレ「知恵泉」という番組で放送されます。宅急便編、福祉編と2回にわたり放送されます。私たちに関係する福祉編は9月7日夜10時~1043分本放送。9月14日昼12時~1243分再放送です。今はこの番組が非常に楽しみになってきました。皆様もぜひご覧になって下さることを期待しております。

 

 

〇小倉昌男氏に関して私が読んだ本

・宅急便を創った男 小倉昌男の福祉革命 障害者給与1万円からの脱出(津野友保著 小学館文庫)

 *オリーブハウスが掲載されています。

・福祉を変える経営 障害者の月給1万円からの脱出(小倉昌男著 日経BP出版センター)

・経営はロマンだ!(小倉昌男著 日経ビジネス文庫)

・小倉昌男祈りと経営「宅急便の父」が闘っていたもの(森健著 小学館)

・小倉昌男経営学(小倉昌男著 日経BPマーケティング)

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