今年は午年です。午年は「エネルギーに満ち溢れパワフルな年」とされています。私自身も6回目の年男であるため公私ともどもパワフルな一年にしたいと思っています。では何にパワーを注ぐのかということになるのですが、それについて思うところを記してみます。
オリーブの樹は10年前に亥鼻、鎌取の両施設を千葉市から移譲されて以来利用者やその家族、行政等からの要請等に応じて、グループホームの拡大、オリーブ轟やオリーブファミリアの開設など矢継ぎ早に施設整備や事業拡大を行ってまいりました。その結果利用者や職員数、事業規模は数倍になりました。一方急速な拡大の中でそのひずみが年々顕著なものとして現れて来ており、それらをどう克服していくかが課題となっていることは言うまでもありません。
昨年来より課題克服に向けての具体的な取り組みを行っており法人組織や運営の改善、法人理念の改正や次世代による中期事業計画作り、職員育成体制の充実等の内部改革を図ってきました。しかしながら施設整備の動きはダイナミックでありその結果が実像として見えるのに対して、内部改革の動きは見え辛く小さな変化にしかとらえられない側面があります。内部改革にドラスティックなものを求めるならそれは革命しかないわけで、私は革命羨望者なので革命もありかと思いますが、自由主義国家、民主主義国家、法治国家において今や革命が勃発しないのと同様に、理事長がこのようなことをいうのは立場違いとは思いますが、第三者によるオリーブの樹の転覆は実際的にはあり得ないことと思いますので、「革命主義」ではなくより緩やかな一定の枠内で改善を図る「改良主義」で臨むことの方が現実的であると思います。
さて、話しを戻します。2024年日本のGNPは55年ぶりにドイツに抜かれて4位になりました。1969年に当時の西ドイツを抜いて日本が2位になった時日本の経済力の強さに喜びと誇りを持ちました。そのことを西ドイツのペンパルに伝えると日本が西ドイツを抜けたのは長時間労働を行っているからだと返って蔑まされました。確かに当時の日本は大企業や公務員を除いてはまだ週休1日が当たり前であり、年間労働時間は2400時間以上でした。すでに年間2000時間を切っていた西ドイツと比べると1割~2割多く日本人は働いていたのです。「work and life balance」の実現こそが重要との意識が既に西ドイツでは浸透し始めており、そのための施策が積極的に推し進められていました。結果として労働時間については雲泥の差が生じていたのです。その後日本も国を挙げてまた労働組合も労働時間短縮(以下「時短」と記す)闘争に取り組んだ結果現在は1600時間にまで減ってきています。しかしドイツでは1340時間でありその差は拡大しています。ペンパルからは今も「あなたや日本人は『労働中毒者』だ」と言われています。
一方これは重要なことですがドイツは時短を推進しても生産力は衰えずむしろ拡大しています。反面日本はその逆を行っています。そのことは多くの経営者の注目の的となっています。その原因を働く中身に求めればよいのですが、ともすれば時短が生産力減少の要因であるとの認識を持つ企業家もいます。昨年高市総理の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」が流行語大賞に選ばれました。この言葉の賛否を巡って様々な意見が今飛び交っていますが、時短に対する本音を漏らしたものととらえる向きもあり、労働時間の枠を緩和しようとする動きが既に始動しています。しかしながら私は職員にとって働き甲斐のある職場を作るには、「work and life balance」の達成が必要であり、それに逆行するような動きは好ましくないと考えています。時短は重要課題として取り組んでいく所存です。
さて、他方「生産性の向上」などというと経団連の回し者のように受け止められませんが、ドイツが生産力を高めながら時短を成し遂げられているのは、労働者一人当たりの生産性を高めているからだと言われています。逆を言えば一人当たりの生産性の向上なくして時短の実現は無いのです。製造業では機械化による生産ラインの改良、事務職ではAIの活用による効率化により時短の取り組みは進みやすいと思います。現に日本でも本格的な時短に取り組み週休3日の企業も出ています。では私たちの本業である障害福祉事業ではこの時短の問題にどう対処をすべきかということになりますが、現実的にはこれが一番の難題であり、これから来年度に向けて多くの職員の知恵を集約して行いかなくてはならないことと考えます。何故なら福祉現場は利用者支援の向上、これは企業で言えば生産性の向上ということになりますが、これと時短は相対立する関係と捉えられて来たからです。
特に私のような古い人間にとっては障害者福祉の仕事は、障害者という困難な問題を抱える人を助けながら、障害者差別と闘い彼らが生存できる社会を実現するための社会運動一つとして捉えていたからです。そのためには自己犠牲が必要とされ、また障害者とは同士としての立場に置くべきとの考えがありました。それ故与えられた時間内で働くという意識は希薄でまたそのような意識を持つことさえ否定されました。障害者のために「のめり込み」、寝食忘れて働く姿こそが美徳とされました。20年前にはタイムカードさえ無い施設がざらにありました。しかしそれは一方では職員に過重な負担を課することになり、美徳の中に隠された障害者への人権侵害や虐待事件が当たり前のように起きていました。
このような昔の「あかつ印刷」を彷彿とさせるような革命運動論による障害者支援は影を潜めました(名古屋の「わっぱの会」はまだこの運動論を取っています)が、障害者の仕事にのめり込み一心に働く姿を美徳とする思いは多くの人たちに残っています。また事実表面的な支援に留まっていたのでは障害者の福祉に寄与しているとは思えない部分もあります。のめり込むという深度を高める支援と時間の中で仕事を行うという相反するベクトルをどう統合させていくが私たちに課せられている課題と思います。
ただしそれを行っていくには個人では何ともしがたいところがあります。法人や職場全体として働き方の内実を検証していく必要があります。職員配置や配置数の妥当性、職員組織の在り方、職員の地位による役割や業務分担、採用や育成の方法、メンタルケアの導入、事業の運営方法・・・等々検証すべき課題ややるべきことは山積しています。それらを解決しつつ真に時短が成し遂げられ、生産性を高めながら「work and life balance」実現できるよう邁進していきたいと思います。
2026年1月1日
社会福祉法人オリーブの樹
理事長 加藤 裕二