新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
昨年は年末まで職員や利用者のコロナ感染があり改めてウィズコロナにどう取り組んでいくかが課題となりました。感染された職員の方々につきましては、せっかくの年末年始休が思う存分楽しめなくなってしまったと思います。お見舞いを申し上げるとともに一刻も早く回復し、少しでも元気に新年を迎えられていることを心より祈念しています。
さて昨年の 12月18日に非常にショッキングなニュースが流れました。ご承知の職員も多いと思いますが、北海道江差町にある社会福祉法人あすなろ福祉会が経営するグループホームで、20 年以上前から入居者が施設内で結婚や同居を望んだ際には不妊処置を提案し、これまで 8 組 16 人の利用者がそれに応じていたというものです。理事長は強制はしていないと言っていますが、応じなければグループホームからの退所を勧告するということであったため、事実上の強制ではないかとの非難の声が上がっています。
理事長の言い分は、グループホームの職員は利用者の支援を行うために働いているので、それ以上のことは職員に要求できないし、また職員には育児のスキルは無いので子育て支援はやれないとのことでした。この言い分は同じ理事長という立場にある者としては若干の理解はできます。なぜなら私たちも知的障害者の人たちの恋愛話などを聞くと性的関係は持っていないのか、もし妊娠してしまったら大ごとだ、妊娠だけはして欲しくないと実際のところは思ってしまうことがあります。事実オリーブの樹では通所していた利用者の妊娠に気付かず、その後彼女は結局出産はしたものの、生まれた子供は即座に乳児院に送られたということがあるからです。知的障害者だけでは子育ては無理という観念から、妊娠、出産を全面的に良しとは思っていないということでは、あすなろ福祉会の理事長と同様で一方的に彼を責めることはできません。
一方だからと言って知的障害者の妊娠、出産、育児の権利を奪ってはならないとも思います。障害あるからという理由でそれらの権利が奪われたならナチスドイツ時代に安楽死計画により抹殺された20数万人の障害者は浮かばれないし、また我が国の優生保護法下で避妊施術を施された多くの障害者の無念は晴らされないでしょう。妊娠、出産、育児は障害の有無にかかわらず万人が持つ権利であると認識すべきです。
福祉の世界は建前と本音の乖離が激しい世界です。それ故我々は現実と理想のはざまの中で揺れ動き悩むことが多々あります。良いことではないと思えることも急場をしのぐため、あるいは他に良いと思われる手段がないということから、不本意ながら行う支援や施策も多くあります。しかしながら社会福祉に従事する者としては不本意ながら行う事柄については常に悩み、検証しより良いものに変革していかなくてはなりません。そのようなことを怠り不適当な支援や施策を恒常化させてしまうことは決して許されることではないでしょう。この点から言えば 20 年間もこの問題を放置し、長期に渡り権利侵害をしていたことを当たり前のこととしてきたあすなろ福祉会の理事長、職員、更にはそれをチェックする役割を負っている行政職員の罪は重たいと考えます。法人として職員集団としてやれることや行政や社会に訴え施策の向上を求めるべきことは数多くあったはずです。一方行政は常に現場の情況に目を配り訴えに耳を傾け、福祉施策の進展を図るべきだったと言えます。
オリーブの樹は前身の小規模作業所オリーブハウスから数えて今年で39年目となります。
来年は40周年の記念の年となります。これに当たり私はこれまでの39年間の歩みを振り返り先に述べた最初は不適切と思われていた支援や施策が、いつの間にか恒常化しそれ当たり前になっていないかを検証し、もしそのようなことがあるならばそれを改善するための第一歩を40年という節目の年から開始しなくてはならないと考えます。
この40年の中で障害者福祉の世界は大きく変貌を遂げてまいりました。その中で我々は翻弄され流されるままに取り組んできた支援や施策は枚挙にいとまがありません。それらを掘り起こし検証し、オリーブハウス~オリーブの樹の40年の功罪を明らかにしていきたいと思っています。特に行政の姿勢は平成18年の障害者自立支援法以降成果主義や教条的な虐待論が強まり、現場の自由を束縛する状況が顕著に強まっています。我々がそれに抗することなく不本意にそれに従ってきたこということが見られるのなら、それらを明確にし、改善を求める声を上げていく必要があり、関係諸機関や社会にそれを訴え行政にその改善を求めていかなくてはなりません。
新春早々重い内容の所信になってしましましたが、40周年のプレの年であります 2023年が職員の皆さんのお力添えにより、オリーブの樹が少しでも過去を清算し障害者福祉のあるべき姿のガイドラインを提示できる年にしたいと思っています。職員の皆様のご協力をお願いします。
「急げ傷跡 羅針盤になれ」(中島みゆき「銀の龍の背に乗って」より)
2023年元旦
社会福祉法人オリーブの樹 理事長 加藤 裕二